はじめに
昨年は予定が合わず断念した東京建築祭。ついにその機会が巡ってきました。普段は見ることのできない建築の内部や、建築家による特別な解説を聞けるこのイベントに、わくわくしながら足を向けました。
今回私が訪れたのは、六本木の国立新美術館と有楽町のOKUROJI。新築の美術館建築と歴史的構造物のリノベーション、全く異なる2つの建築を通して、東京の建築文化の豊かさを実感した一日となりました。
東京建築祭とは?
東京建築祭は、東京の優れた建築を広く市民に公開し、建築文化の普及を目的としたイベントです。2025年5月17日から25日まで9日間にわたって開催され、今年は記念すべき第二回目の開催となりました。昨年の第一回開催の成功を受け、今年はさらに多くの建築物・施設が参加し、より充実したプログラムが組まれました。
このイベントの最大の魅力は、普段は立ち入れない建築の内部空間を見学できることです。建築家や設計事務所によるガイドツアー、建築の背景にあるストーリーを聞ける講演会、そして建築関係者との交流の機会も豊富に用意されています。建築のプロから一般の建築愛好家まで、幅広い層が参加し、東京の建築文化を共有する貴重な機会となっています。
参加は事前予約制の施設が多く、人気の建築物は早期に満席になることも。第二回となる今年も多くの市民が参加し、東京の建築の多様性と魅力を再発見する機会となりました。前回の開催で建築への関心が高まった多くの人々が、今回も熱心に参加している姿が印象的でした。
国立新美術館見学レポート
建築概要
国立新美術館は2007年に開館した、日本で5番目の国立美術館です。設計を手がけたのは、世界的建築家の黒川紀章氏。代表作には広島市現代美術館や中銀カプセルタワービルなどがあり、メタボリズム建築運動の中心人物として知られています。
六本木という都市の中心部に位置しながら、延床面積約14,000平方メートルという巨大なスケールを持つこの美術館は、「森の中の美術館」をコンセプトに設計されました。最大の特徴は、正面を飾る波のような曲線を描くガラスのファサード。この有機的な形状は、自然との調和を重視した黒川氏の設計思想が表れています。
見学体験
建物に近づくと、まず圧倒されるのがその巨大なスケール感です。地上3階、地下1階の構造ですが、水平に広がる建物の存在感は圧巻。特に正面のガラスカーテンウォールは、見る角度によって表情を変え、まるで生きているかのような印象を受けます。
館内に入ると、吹き抜けの大空間が広がります。天井高は約20メートル。自然光が上部から注ぎ込み、時間とともに変化する光の演出が建物全体を包み込んでいます。この光の取り入れ方は、展示空間としての機能性と建築的な美しさを両立させた見事な設計だと感じました。
印象的だったポイント
外観から圧倒される美しさ、ワクワクします。中に入ると圧倒的な解放感。逆円錐状のコンクリートの構造物建物が目に入ります、上部がレストラン施設になっています。
展示施設はわかりやすくシンプルです。展示を効率よく鑑賞できるこの動線は、美術館建築としての機能性の高さを物語っています。
地下のショップには、美術館オリジナル商品や書籍、雑貨が充実していて、見るだけで楽しかったです。
OKUROJI見学レポート
建築概要
日比谷OKUROJIは、JR有楽町駅と新橋駅間の高架下に2018年にオープンした商業施設です。この場所は1910年に作られた煉瓦造りの鉄道高架橋で、約100年以上の歴史を持つ貴重な近代化産業遺産でもあります。
「OKUROJI」という名前は、奥にある路地という意味の「奥路地」に由来し、都市の隙間空間を活用した新しい商業空間として注目を集めています。設計は複数の設計事務所が参画し、歴史的構造物の保存と現代的な商業施設機能の両立を図ったリノベーションプロジェクトです。
見学体験
高架下という独特な空間に足を踏み入れると、まず感じるはこの先に何があるのか?とういう期待感。午後の訪問で割と静かでした。煉瓦造りのアーチ構造がそのまま活かされており、歴史の重みを肌で感じることができます。
3つの時代の異なる高架橋からできている(JR東海新幹線、JR東海本線、JR山手線・JR京浜東北線)のが印象的でした。耐震補強がされ、鉄骨の梁や煉瓦の壁面は補修・清掃されているものの、建設当時の姿をできる限り保持しており、過去と現在が共存する不思議な空間でした。
印象的だったポイント
OKUROJIの最大の魅力は、都市の「余白」を有効活用したアイデアにあります。高架下という一見制約の多い空間を、むしろその特徴を活かした魅力的な商業空間に変貌させた発想力には驚かされました。
また、歴史的構造物の保存という観点でも非常に価値の高いプロジェクトだと感じました。単なる保存ではなく、現代の生活に溶け込む形で活用することで、多くの人々にその価値を伝えることに成功しています。
煉瓦造りの重厚感と現代的な店舗デザインの対比も見事で、古いものと新しいものが対立するのではなく、互いを引き立て合う関係性を築いているのが印象的でした。
2つの建築を巡って感じた東京建築の魅力
新築とリノベーション、それぞれの魅力
国立新美術館と日比谷OKUROJIを巡って感じたのは、東京という都市が持つ建築の多層性です。黒川紀章氏が設計した国立新美術館は、21世紀の美術館建築として最新の技術と思想が結集された「新築」の魅力を存分に体現していました。一方、日比谷OKUROJIは明治時代の鉄道インフラを現代の商業空間として蘇らせた「リノベーション」の可能性を示しています。
新築建築の魅力は、その時代の最先端技術と設計思想を体験できることです。国立新美術館では、自然光の効果的な活用、快適な空調システム、バリアフリー設計など、現代建築の到達点を実感できました。
一方、リノベーション建築の魅力は、歴史の積み重ねと現代の創造力が融合する瞬間を体験できることです。OKUROJIでは、100年以上前の煉瓦造りの構造体が、現代の商業施設として新たな生命を得ている様子を目の当たりにし、建築の持つ時間的な豊かさを感じました。
建築祭参加の意義
昨年の経験を活かしたより充実したプログラムが組まれており、建築への理解を深めるイベントとなっていました。
わざわざ県外からホテルをとって出向いたと言ったら、驚かれました。
建築は私たちの日常生活に密接に関わりながら、その価値や魅力に気づく人は少ないかも知れませんが、歴史や時代背景建築家の想いや設計の背景、を知ることで、街を歩く楽しみを何倍にも増やしてくれる貴重なイベントでした、
また、建築を通じて東京という都市の多面性を理解できることも大きな意義です。最新の技術を駆使した現代建築から、歴史的価値を持つ建築の再生まで、東京の建築文化の豊かさを体感できます。
まとめ|来年への期待と建築への新たな眼差し
東京建築祭2025の第二回開催は、前回以上に充実した内容で、東京の建築文化の魅力を存分に味わうことができる素晴らしいイベントでした。国立新美術館の圧倒的なスケール感と日比谷OKUROJIの歴史と現代の融合という、全く異なる2つの建築体験を通じて、建築の持つ無限の可能性を感じることができました。
今回の体験で最も印象に残ったのは、建築が単なる「建物」ではなく、時代の精神や設計者の哲学、そして都市の歴史が込められた「文化的な表現」であるということです。
第二回目となる今年の開催を経て、東京建築祭はますます市民に根ざしたイベントとして定着していくことでしょう。来年の第三回開催では、さらに多くの建築物が参加し、より多様な建築体験が提供されることを期待しています。
建築に興味のある方はもちろん、普段建築を意識したことがない方にこそ、ぜひ参加していただきたいイベントです。きっと街を見る目が変わり、日常の中に新たな発見と喜びを見つけることができるはずです。来年の開催が今から楽しみです。
今回は建築ツアーには参加できませんでしたが、次回は参加したいと思います。
東京建築祭2025
https://tokyo2025.kenchikusai.jp
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